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【相続財産からの葬儀費用の支出と、相続放棄の可否について】
- 2013.07.04
あおば事務所のSNS - 投稿者:あおば登記・法務事務所
【相続財産からの葬儀費用の支出と、相続放棄の可否について】
先日、相続放棄の相談がありました。
メイン担当は田中司法書士だったので、自分のお仕事のように書くのも何ですけど。
その中で、なかなか面白い論点に遭遇したので、ご紹介します。
相談内容にはいくつかの論点が含まれていたのですが、中でも特筆すべきものが、
「被相続人の預金が10万円ほど残っているが、それ以上に債務があるのは間違いないので、相続放棄をしたい。でも私が葬儀費用を負担したので、同預金を引き出して葬儀費用の一部に充て、そのうえで相続放棄したい。」
という点でした。
この問題については、
「相続財産による相続債務の弁済は、(異説もあるけれども)基本的には相続債権者の衡平を害するおそれがあるとして処分行為とされてしまう可能性が強いです。そうなると、単純承認があったとみなされるので、相続放棄の効果が無効になりますよ。」
という回答が妥当だと思うのですが、そのような趣旨の回答を田中司法書士がお伝えしたところ……
相談者いわく、「常識的な範囲の葬儀費用なら、相続財産からの支出を認めた判例があると聞いたことがあるのですが……」とのこと。
えーっ、そうなの~!Σ( ̄□ ̄)、と慌てて実務書を漁ったのだけど、すぐには発見できず。
まぁ、その相談の場では、太田から
「仮にそういう裁判例があったとしても、常に同じ結論が妥当するとは限らないし、決行しちゃうのはリスクが高いのでは。そもそも葬儀費用って、法律的には相続財産から支出するべきものではなく、喪主が負担するべきものだし(※)。」
ということをご説明して、とりあえず預金には手を着けず、普通に相続放棄を目指す方針で行くことになったのです……が。
(※ この点については、http://bit.ly/12Htkxk や http://bit.ly/12Htl4h をご参照下さいませ。)
あとでじっくり実務書をめくってみたら、確かにそういう裁判例があるんですね。
新日本法規「相続の承認・放棄の実務」の173ページ(ただしh15年版)によれば、
「被相続人の葬儀費用を相続財産中から支払った場合について、身分相応の、当然営まれるべき程度の葬儀を行った費用であれば、相続財産から支出しても、単純承認事由には当たらないとする判例がある(東京控判昭11.9.21……)」
とのこと。でも戦前の裁判例ですからねぇ。どうでしょうねぇ。
同様に、やむを得ず負担せざるを得なかった火葬費用と治療費残額の支払いに充てたケースで、単純承認を否定した先後の裁判例もあるようです(大阪高決昭54.3.22)。
でも火葬と葬儀も違いますからねぇ。どうでしょうねぇ。
ってなわけで。
いずれにしてもリスクを考えれば、裁判例があるからといって結論だけを鵜呑みにするわけにいかず、やはり相続財産には手を着けずに相続放棄!というのが無難、という結論は変わらないのですけれどもね。
にしても、相談者さんはどこでこの裁判例を知ったのでしょう?
今度ご連絡を取る際には、その辺を尋ねておきたいものです。
===========
【h25.7.6 加筆】
田中司法書士がもっと詳しく調べてくれました(ありがとうございました!)。より新しい裁判例もあるようですね。
→http://on.fb.me/12MdAZL
「葬式費用の支払いと単純承認/弁護士の法律相談」
→http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/so/shonin.html
先日、相続放棄の相談がありました。
メイン担当は田中司法書士だったので、自分のお仕事のように書くのも何ですけど。
その中で、なかなか面白い論点に遭遇したので、ご紹介します。
相談内容にはいくつかの論点が含まれていたのですが、中でも特筆すべきものが、
「被相続人の預金が10万円ほど残っているが、それ以上に債務があるのは間違いないので、相続放棄をしたい。でも私が葬儀費用を負担したので、同預金を引き出して葬儀費用の一部に充て、そのうえで相続放棄したい。」
という点でした。
この問題については、
「相続財産による相続債務の弁済は、(異説もあるけれども)基本的には相続債権者の衡平を害するおそれがあるとして処分行為とされてしまう可能性が強いです。そうなると、単純承認があったとみなされるので、相続放棄の効果が無効になりますよ。」
という回答が妥当だと思うのですが、そのような趣旨の回答を田中司法書士がお伝えしたところ……
相談者いわく、「常識的な範囲の葬儀費用なら、相続財産からの支出を認めた判例があると聞いたことがあるのですが……」とのこと。
えーっ、そうなの~!Σ( ̄□ ̄)、と慌てて実務書を漁ったのだけど、すぐには発見できず。
まぁ、その相談の場では、太田から
「仮にそういう裁判例があったとしても、常に同じ結論が妥当するとは限らないし、決行しちゃうのはリスクが高いのでは。そもそも葬儀費用って、法律的には相続財産から支出するべきものではなく、喪主が負担するべきものだし(※)。」
ということをご説明して、とりあえず預金には手を着けず、普通に相続放棄を目指す方針で行くことになったのです……が。
(※ この点については、http://bit.ly/12Htkxk や http://bit.ly/12Htl4h をご参照下さいませ。)
あとでじっくり実務書をめくってみたら、確かにそういう裁判例があるんですね。
新日本法規「相続の承認・放棄の実務」の173ページ(ただしh15年版)によれば、
「被相続人の葬儀費用を相続財産中から支払った場合について、身分相応の、当然営まれるべき程度の葬儀を行った費用であれば、相続財産から支出しても、単純承認事由には当たらないとする判例がある(東京控判昭11.9.21……)」
とのこと。でも戦前の裁判例ですからねぇ。どうでしょうねぇ。
同様に、やむを得ず負担せざるを得なかった火葬費用と治療費残額の支払いに充てたケースで、単純承認を否定した先後の裁判例もあるようです(大阪高決昭54.3.22)。
でも火葬と葬儀も違いますからねぇ。どうでしょうねぇ。
ってなわけで。
いずれにしてもリスクを考えれば、裁判例があるからといって結論だけを鵜呑みにするわけにいかず、やはり相続財産には手を着けずに相続放棄!というのが無難、という結論は変わらないのですけれどもね。
にしても、相談者さんはどこでこの裁判例を知ったのでしょう?
今度ご連絡を取る際には、その辺を尋ねておきたいものです。
===========
【h25.7.6 加筆】
田中司法書士がもっと詳しく調べてくれました(ありがとうございました!)。より新しい裁判例もあるようですね。
→http://on.fb.me/12MdAZL
「葬式費用の支払いと単純承認/弁護士の法律相談」
→http://www.asahi-net.or.jp/~zi3h-kwrz/so/shonin.html