【法務】「建売住宅」の登記スキームについて・その2


2012年6月26日 / 投稿者:

 太田@あおばです。

 前回のブログで、「建売住宅」の登記スキームの中で、売買代金をメーカーが受け取る前に、あらかじめ、買主名義で「表題」を起こすことが多い……ということを述べました。
 しかしその場合、メーカーには先履行のリスクが生じるわけで、そのリスクを何らかのかたちで保全することはできないだろうか? という質問をいただきました。

 それに対する回答の結論としては、前回書いたとおりではあるのですが、そこに至った考察の経緯を書き残しておきます。

【考察の経緯】

  1.  更正などの登記を準備しておく?
    •  メーカーから真っ先に提案があったのは、「登記名義の更正などに必要な書類を、買主側から貰っておく」という方法論でした。
       すなわち、いったんは買主さん名義で表題登記を起こすとしても、もしもの場合に備えて、表題登記の名義人をメーカーへ更正するために必要な書類を揃えておく(買主のハンコも貰って預かっておく)、というものですね。
       まぁ、メーカーさんの立場では、当然の発想とも言えるでしょう。
    •  あ、ここでは「表題の更正」ということで書きましたが、実際には表題レベルでの更正が認められないかもしれませんね。その場合は、買主名でいったん「保存」したうえで「所有権の更正」あたりの手段を取ることになろうかと思われます。この辺は実際にやるとなったら本気で検討しますが、まだそこまで煮詰めてません。とりあえず、どこかの段階で何らかの「更正など」が可能だという仮定で話を進めます。
    •  さて、確かに、前もって預かっていた書類だけでこの「更正など」が可能なのであれば、メーカーとしてはリスクを最小限に留めることができますから、魅力的な話ではあります。
    •  しかし、いざ「もしもの場合」に、その更正などの登記を受託することになる資格者代理人(土地家屋調査士または司法書士)とすれば、書類が揃っているだけでその登記を受託するわけにはいきません。
       事前にあらゆる場合を想定して、買主側から「更正など」に必要な書類を漏れなく徴求するだけでも難儀なことです。さらにハンコをいただく際の「説明」や「意思確認」などを、どれだけしっかりやれば充分なのか?という点については、答えを出すことが不可能と思われるくらい、困難な課題になります。
    •  仮に、そういった困難を、ことごとくクリアすることが可能だったとしても……。
       まだ登記原因(錯誤?)が生じたわけでもなく、またその発生の蓋然性も乏しいのに、万が一の可能性に備えて、あらかじめ委任状等に捺印を貰っておくこと。そして、その「万が一」が生じたとき、機械的にその預かり書類を使って登記を進めるということには、どうにも抵抗を感じてしまいます。
       資格者代理人の職責として、採るべきではない方法論なのではないか?というのが、(少なくとも、現時点での)太田の見解です。
    •  ……というわけで、この方法論はNG、という回答をさせていただかざるをえませんでした。
  2.  念書などを貰っておく?
    •  登記を前もって準備しておくのがNGならば、せめて買主側から「万が一のときには更正などの登記に協力します」という旨の「念書」的な書類を貰っておいて、買主側の協力を確保しておくべきではないか、という提案もいただきました。
    •  しかしこれも、いまいち実効性に乏しい対策ではないかなぁ、というのが太田の考えです。
    •  今回の考察では、代金決済が予定通りできなかった場合のリスクを考えているわけですね。段階的に分析してみますと、
      •  売買契約は成立していて、買主には代金支払などの義務が、売主たるメーカーには所有権移転やその登記手続などの義務がある。
      •  メーカーの義務は、(便宜上)先履行しなければならないことになっている。
      •  とはいえ買主の義務が減免されるわけではないので、買主は定められた期限までに代金を支払う義務を負っている。
      •  買主が代金の支払を遅滞した場合には、メーカーは催告のうえで売買契約を解除することができる(民法541条)。
      •  解除の効果として、買主は原状回復義務を負う(民法545条1項)。すなわち、買主は所有権の復帰と、その登記手続を行う義務を負うことになる。
    •  というわけで(……クドい、ですかね?)、「念書」なんて貰わなくても、買主の協力義務は明らかで、証明も可能なわけです。
    •  よく「一筆もらっておけば安心」なんて言いますが、そういう「書面」があったから、自動的にモノが戻ってくるとか、そんな夢のようなことはあり得ないわけですな。
       究極的には、相手方を訴えて判決をとって強制執行を目指すしか、強制的な義務履行は達成されません。あらゆる「書面」は、そういう裁判手続の中で相手方の義務を証明するための証拠資料として役立つに過ぎないのです。
       (もちろん、そこまで行く途中で、「書面」の存在が心理的プレッシャーの一要因として働き、結果として任意の履行に至る、などということも考えられるでしょう。しかしそれはあくまで副次的効果というべきでしょうね。)
    •  ですので、「念書」なんて貰っても、抜本的な対策にはなり得ない、というのが太田の見解です。
       そして現実問題としては、その「念書」を貰うため、余計に説明等の労力を費やさなければならないことのデメリットも考慮すべきでしょう。
       また、メーカーがリスクを抱えていることを、過分に関係者にアピールすることになりますので、いわばスキをさらけだすことに繋がり、かえって「イタズラ」が入り込む可能性を増やしてしまうことも考えられます(……考え過ぎかもしれませんけど、ね)。
    •  加えて、このような案件で一番厄介なのは、買主本人の背信的行為、では実はありませんで、買主が途中で死亡して相続が発生すること、なのですな。
       買主が健在であれば、その裏切りってのは現実的に考えづらい。建物だけ名義を得ても、それを利用してうまいこと詐欺を働く、というのは、まぁ難しいかと。
       しかし買主が決済前に亡くなったりしたら、いったん買主にのせた登記名義は、買主の相続人全員の協力が無いと戻せない。そうなると、買主からいくら「念書」を貰ったって、何の役にも立ちません。
       ……まぁ、それを言い出したら、上記「1」で考察した 「更正などの登記」の準備も含めて、どんな対策も無益、ということになるわけですけどね(^_^;)
  3.  抵当権の仮登記などで債権保全を図る?
    •  これは太田の提案してみた選択肢です。
       メーカー側としては、売買代金債権を満足させたいわけですから、それを被担保債権として、建物に抵当権の仮登記をつけておく、という方法論もあり得るでしょう。
       その場合の流れとしては、
      •  買主名義で「表題」を起こす。
      •  完了後、 すぐさま買主名義の「保存」と、抵当権の仮登記を連件で申請しておく。
      •  代金決済日には、仮登記の抹消、土地の所有権移転、住宅ローンの設定を連件で申請する。……ということになりますね。
    •  とはいえ、売買代金の決済が不奏功となった場合に、メーカー側が真に目指すのは、売買代金の回収ではなくて、所有権&登記を取り戻して他のお客さんに売ること、ということになります。
       ですので、この抵当権仮登記は、建物の競売を目指すために、ではなく、 むしろ「第三者への処分等を予防するため」に用いることになりますね。
    •  買主側から見れば、建物の名義を得ただけで、土地の名義はまだメーカーのまま。その状態で建物だけ購入したり、担保をつけたりする第三者が登場するとは、現実的には考え難いところです。
       それでも、念のための保全としては有効なのではないかなぁ、ということで提案してみたのですが、メーカーさんとすれば「そこまではやりたくないなぁ。」とのスタンスでした。

【まとめ、その他の事項】

 と、いうわけで、残念ながら、リスクもコストも両方回避できるような上手いテクニックは、太田の足りない頭では考えつくことができませんでした。どなたか、「こんな方法があるよ」というのがございましたら、ぜひご教示いただきたく(^_^;)

 

 ところで、この場合の「コスト」で最も大きい項目と思われる「不動産取得税」。
 太田の理解では、この税金は文字通り所有権を「取得」した、という事実に課税されるものであって、登記名義を得たか否かにはかかわらない……と思っておりました。

 ですので「建売住宅」の場合は、当然にメーカーが建物を建築完了した段階で課税される……と想像していたのですが。
 あるメーカーさんからの情報によれば、どうも表題登記を起こさないと、メーカーさんには不動産取得税が課税されないっぽいですね(^_^;)。

 これは果たして、「バレないだけ」というレベルの話なのか、それとも、何か理論的な正当性があってのことなのか……?
 (未完成の段階での建物売買と考える余地もあるから……とか?)

 まぁそれはともかく、「表題」をメーカーで起こせば、メーカーと買主の双方に取得税が課税されるところ、「表題」を買主で直接起こせば、買主にしか課税されない……というのであれば、コスト面で無視しがたい差が生じてしまうことになります。
 となると、やはり、多少のリスクを背負っても、買主での直接「表題」という枠組みを変えるのは難しいかもしれませんね。



カテゴリー:太田宜邦のblog



 

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